メンタル繊細さんにおすすめポイント
- 一話完結ではないが、依頼者ごとの話
- 手紙に思いを込めて伝えるため、静かな物語
あらすじ
祖母から文具店を受け継いだ鳩子が営む「ツバキ文具店」は、ただの文具店ではありません。
そこでは“代筆業”という、少し特別な仕事が行われています。依頼者の話を丁寧に聞き取り、その人の気持ちを汲み取って、文章だけでなく、便箋・封筒・切手に至るまで、すべてを選び抜いて手紙を綴る──そんな繊細で誠実な仕事です。
ふらりと現れる依頼者たちは、誰かに伝えたい思いを胸に抱えています。鳩子はその声に耳を傾け、言葉にならない感情までもすくい上げて、手紙に込めていきます。
手紙を通して人と人がつながり、鳩子自身も少しずつ過去と向き合いながら、静かに歩みを進めていく物語です。
手紙に込める穏やかな想い
章ごとに季節が移ろい、その中で数人の依頼者が登場する構成なので、一話完結に近い読み心地。感情を引きずることなく、安心して読み進められます。
代筆を依頼するほどの気持ちは、どれも優しく、静かな愛情に満ちています。
激しい感情ではなく、遠くからそっと見守るような、穏やかな想い。読んでいると、こんなふうに誰かを想えるって素敵だな…と、心がじんわり温かくなります。
また、文章だけでなく、便箋や文具の選び方にもこだわる鳩子の姿勢には、深い敬意を感じました。
便箋の色や質感、切手の絵柄までもが、依頼者の気持ちを代弁する手段になる──そのプロフェッショナルさが、物語に静かな深みを与えています。
そして何よりうれしいのは、鳩子が代筆した手紙がそのまま本に掲載されていること。
手紙の内容やそれぞれの依頼に合わせた文字を実際に読めることで、物語の余韻がより鮮やかに残ります。
代筆屋という仕事が描く、人と人との優しい距離
「ツバキ文具店」は、手紙という静かな手段を通して、人の気持ちの奥深くに触れていく物語。
誰かを思う気持ちの美しさ、言葉にすることの大切さ、そして文具の力──すべてがやさしく描かれています。
鳩子の代筆業は、ただの仕事ではなく、心をつなぐ橋渡し。
読後には、自分も誰かに手紙を書きたくなるような、そんな気持ちが芽生えます。
手紙というツールを使い、感情の波が穏やかなので、繊細な読者にも安心しておすすめできる一冊です。
手紙の良さを教えてもらったお話でした。