メンタル繊細さんでも安心して読める
穏やかでやさしく、大きな事件や強い対立の少ない物語を選んで取り上げています。
繊細さん向けのお話

人魚が逃げた(青山美智子・PHP研究所)─SNS騒動の中で、人生を見つめ直す5つの物語

犬鹿

メンタル繊細さんにおすすめポイント

  • 一話完結で気持ちのアップダウンが少なく、穏やかな気持ちで読める
  • 登場人物が悩みながらも、少しずつ自分を肯定していく姿に救われる
  • 「人生は最後までわからない」という言葉が、今を生きる希望になる

あらすじ

土曜日の午後、歩行者天国に現れた“王子”のような青年が、ワイドショーのインタビューでこう語ります。

「僕の人魚がいなくなってしまって……逃げたんだ。この場所に。」

その一言がSNSで拡散され、「#人魚が逃げた」がトレンド入り。 街はちょっとした騒ぎに包まれます。

そんな中、偶然その場に居合わせた5人の男女が、王子との出会いや騒動をきっかけに、それぞれの人生を見つめ直していきます。

  • 年上の恋人に見栄を張り、本音を言えない若い男性
  • 子育てを終え、自分の人生の意味を探す母親
  • 離婚を突きつけられ、過去を否定された気分になる元夫
  • 自信のなさから、妻に劣等感を抱く小説家
  • 年下の恋人に想いを伝えられず、すれ違ってしまう銀座のクラブのママ

王子は何者なのか。人魚は本当に存在するのか。 王子騒動の中、彼らは少しずつ、自分の人生や過去を受け入れ、未来に希望を見出していきます。

SNS騒動の裏で、人生を見つめ直す人たち

 この物語に登場する5人の悩みは、どこか自分の心と重なります。 「本当の気持ちを言えない」「自分の人生に自信が持てない」「過去を後悔している」── そんな思いを抱えた彼らが、王子との出会いをきっかけに、少しずつ自分を許し、前を向いていく姿に、読んでいるこちらも救われるような気がしました。

 物語は一話完結で、日常の延長線上にあるような静かな展開。 感情の波も穏やかで、心が疲れているときでも、安心して読み進められます。

 そして最後に語られる「最後までわからないものですよ、物語というものは」という言葉。 それはまるで、「人生も、まだ途中。だからこそ希望がある」と語りかけてくれるようで、胸に残りました。

最後までわからないもの─物語と人生

 この本は、はっきりとした悩みがなくても、なんとなく不安を抱えている人にこそ読んでほしい一冊です。 登場人物たちが、読者の代わりに悩み、迷い、そして小さな答えを見つけてくれる。 その姿に、そっと背中を押されるような気持ちになります。

 「人魚が逃げた」という不思議な言葉に導かれて、 自分の人生を見つめ直す─ 静かな午後に、心を休めるように読んでほしい一冊です。

犬鹿

2025年の本屋大賞にもノミネートされていましたね。