『みちひらきのおかげ犬』感想(谷瑞恵・小学館)|おかげ犬との出会いが運ぶ、小さな希望の物語
繊細な人でも安心して読める?
安心ポイント★☆☆☆☆
- 『みちひらきのおかげ犬』は、おかげ犬と出会った人々が、自分の悩みや人生と向き合っていく物語です。
- 犬が登場する可愛らしいタイトルから、ほのぼのとした癒やしの物語を想像するかもしれません。しかし、実際に描かれるのは、モラハラや家族の問題など、現実にもありそうな重い悩みです。
- 主人公のつらさに引き込まれ、読んでいて気持ちが大きく沈む場面があります。
- 各章の最後には、主人公が少しずつ前を向こうとする姿が描かれます。ただ、問題がすっきり解決するわけではありません。寂しさや苦しさを抱えながら、それでも一歩を踏み出すような、かすかな希望が残ります。
- 希望のある物語ではありますが、登場人物の苦しさに共感しすぎてしまう人は、読むタイミングを選んだほうがよいかもしれません。
あらすじ
おかげ犬とは、飼い主に事情があって、本人が参拝に行けない場合、飼い主に代わって伊勢神宮に参拝する犬のことです。
道中の餌代やお札代などはおかげ犬の首輪などにくくりつけ、同じように伊勢神宮に向かう人が道中におかげ犬を見つけたら世話をし、リレーのように伊勢神宮まで連れていく。皆のおかげで参拝できるから「おかげ犬」。
おかげ犬と出会った人々が、その犬と行動をともにするなかで、自分自身や人生を見つめ直していく連作短編集です。
登場人物たちは、それぞれ人には簡単に話せない悩みや、苦しい状況を抱えています。
おかげ犬との出会いは、そんな彼らの心に小さな変化をもたらします。
大きな奇跡が起こってすべてが解決するわけではありません。それでも、人との出会いや何気ない出来事をきっかけに、少しずつ違う方向へ目を向けていきます。
それぞれの物語を読み進めるうちに、おかげ犬をめぐるつながりも見えてきます。
読んで感じたこと
「おかげ犬」というタイトルが可愛らしく、どんな物語なのだろうと興味を持って読み始めました。
ところが、登場人物たちが抱えている悩みは、想像していたよりもずっと重いものでした。
でも、どれも現実にありそうな問題です。
だからこそ、物語の中の出来事として読み流すことができず、自分自身の悩みと重ねてしまうこともありました。
登場人物の苦しさが伝わってくる書き方も印象的です。主人公の気持ちに引き込まれるぶん、読んでいるこちらまで気分が落ち込んでしまいます。
各章の最後には、主人公が少しずつ前を向き始めます。
ただし、悩みが大きく解消されて、ぱあっと明るい気持ちになれるわけではありません。
出会いを通じて、かすかな希望がじわっとにじみ出てくる。そんな印象の物語でした。
この作品で一番心に残ったこと
心に残ったのは、主人公たちが寂しさや苦しさを抱えながらも、少しずつ前を向いていく姿です。
すべての問題が解決するわけではなくても、誰かとの出会いによって、これまでとは違う考え方が生まれることがあります。
最後には希望が残りますが、それは悩みを忘れられるほどの明るさではありません。
寂しさを抱えたまま、それでも一歩を踏み出してみる。
そんな静かな変化が描かれている作品だと感じました。
こんな人におすすめ
- お伊勢参りや、昔の人々の旅に興味がある方
- 犬が登場する物語が好きな方
- 人との出会いによって、少しずつ心が変化していく物語を読みたい方
- 悩みを抱えながらも、前を向こうとする人々の姿を描いた物語が好きな方
※希望のある物語ではありますが、各章のテーマが重く、登場人物の苦しさに共感しすぎてしまう人は、読むタイミングを選んだほうがよいかもしれません。
各章の登場人物の抱える悩みを書いておきます。
知りたくない方は読み飛ばしてね
- モラハラの彼氏に悩む女性
- 心中する場所を探して旅をする老夫婦
- ヤングケアラー
- 子どもが行方不明になった母親
- 家族の深い秘密を抱える女性
読後の感想・まとめ
『みちひらきのおかげ犬』は、おかげ犬との出会いを通じて、悩みを抱えた人々が自分の人生と向き合っていく物語です。
可愛らしいタイトルから、穏やかで癒やされる作品を想像していましたが、実際には重いテーマが多く、読んでいて気持ちが沈む場面もありました。
それでも、物語の最後には、登場人物たちが少しずつ前を向こうとする姿が描かれます。
ただ、そこにあるのは、すべてが解決したあとの晴れやかな希望ではありません。寂しさや苦しさを抱えながら、それでも進んでいこうとする、小さな希望です。
お伊勢参りや犬に興味がある方には、手に取るきっかけになる作品かもしれません。
一方で、読書には安心感や癒やしを求めたい方、現実の悩みを思い出すような物語が苦手な方は、読むタイミングを選んだほうがよさそうです。



