『家守綺譚』感想(梨木香歩・新潮文庫)|自然の美しさ、不思議さ、こわさを穏やかに感じる物語
繊細な人でも安心して読める?
安心ポイント★★★★★
- 私の中のキングオブ穏やかの『カモメ食堂』と同じくらいの安心感でした。
- 穏やかな物語で、読んでいて嫌な気持ちになるような人物はほとんど出てきません。主人公の感情も大きく乱れることなく、全体を通して落ち着いた空気が流れています。
- 自然の中で起こる不思議な出来事に、主人公がゆるやかに巻き込まれていくような物語です。
- 不思議な出来事の中には、少し「こわさ」を感じるものもあります。でもそれは、怖い話のような恐怖ではありません。自然や人ならざるものに対する畏れのようなもの。
- そのため、私のブログの安心ポイントでは★★★★★としました。
あらすじ
今から百年ほど前、駆け出しの作家・綿貫は、亡くなった友人の家を管理することになります。
自然に囲まれたその家で暮らし始めた綿貫のもとには、さまざまな訪問者がやってきます。
それは人間だけではありません。
植物や動物、そして、この世のものとは少し違う存在まで。
綿貫は、そんな不思議な出来事に戸惑いながらも、どこか自然なことのように受け入れていきます。
穏やかな日常の中に、不思議なものがそっと入り込んでくる。
そんな出来事がいくつも重なりながら、物語は進んでいきます。
読んで感じたこと
一番印象に残ったのは、自然の描写の美しさです。
章のタイトルにも草木の名前が使われていますが、物語の中でも自然がとても丁寧に描かれています。
読んでいると、その場所の風景が頭の中に浮かんできます。
風が吹いて、草木が揺れて、季節が移っていく。
文章を読んでいるはずなのに、まるで自分もその場所にいるような感覚になりました。
そして、綿貫のもとには自然にまつわる不思議な出来事が次々と起こります。
何かを探しに行くというより、待っていると向こうからやってくる。
その感じが、なんだかとても羨ましく感じました。
現実では、自分から出かけたり、人に会ったり、何かを始めたりしないと、新しい出来事はなかなかやってきません。
でも、この物語では、家で暮らしているだけなのに、自然や不思議な存在のほうから訪ねてきてくれる。
そんな世界が、とてもいいなあと思いました。
主人公と一緒に自然の不思議に巻き込まれながら、私もその美しさや、時には畏れを感じるような「こわさ」を体験したような気持ちになりました。
そして、最後の章では、主人公がある決断をしていました。
それを読んで、「私はどうするだろう」と考えました。
たぶん私は、主人公とは別の判断をするだろうな。
物語を読み終わったあとも、最後の章を振り返りながら、そんなことを考えていました。
この作品で一番心に残ったこと
自然に対する「畏れ」と「親しみ」が同時に存在していることです。
『家守奇譚』に登場する自然は、ただ美しく眺めるものではありません。
人間には分からない力を持ち、ときには人間の理解を超えたものとして描かれています。
だからこそ、そこには少し「こわさ」があります。
でも、そのこわさは嫌な恐怖ではありません。
自分たち人間よりもずっと大きな存在に対して、少し身を引きながら敬うような感覚。
それなのに、草木や動物たちはとても身近で、親しみも感じられる。
美しいけれど、少しこわい。
不思議だけれど、どこか懐かしい。
そんな自然との距離感が、この作品の魅力だと思いました。
こんな人におすすめ
- 穏やかな気持ちで読める本を探している人
- 嫌な人物がほとんど出てこない物語が好きな人
- 自然の美しい描写を楽しみたい人
- 不思議な出来事が起こる物語が好きな人
- 現実とは少し違う世界に連れて行ってほしい人
- 怖すぎない、不思議な物語を読みたい人
- 繊細で、刺激の強い物語に疲れてしまう人
- 犬好きな人
本当に穏やかなお話で、キングオブ穏やか(その2)です。
読後の感想・まとめ
『家守綺譚』は、自然の中で起こる不思議な出来事を、穏やかに味わえる一冊でした。
自然の描写がとても丁寧なので、読んでいるとその風景が目の前に浮かび、今いる場所から別の世界へふっと飛んでいけそうな感覚になります。
主人公と一緒に自然の不思議に巻き込まれながら、美しさ、不思議さ、そして畏れから生まれる「こわさ」を体験できました。
大きな刺激や激しい展開がある物語ではありません。
それでも、読み終わったあとには、静かに心に残るものがあります。
自然の美しさ、不思議さ、こわさを穏やかに感じられる一冊。
繊細な人にもおすすめしたい物語です。



