ケチる貴方 感想(石田夏穂・講談社文庫)|身体の悩みを追いかけた先にあるもの
繊細な人でも安心して読める?
安心ポイント★★★☆☆
- この本には、表題作の「ケチる貴方」と「その周囲、五十八センチ」の2作品が収録されています。2作品とも身体に関する悩みが中心になっています。
- 「ケチる貴方」では低体温、「その周囲、五十八センチ」では脚の太さに悩む主人公が登場します。
- また、「その周囲、五十八センチ」では脂肪吸引が描かれ、身体を変えることへの強いこだわりも出てきます。
- そのため、容姿や身体のことで悩んでいる人、美容整形などについて考えている人は、読むタイミングによっては少し刺激を受けるかもしれません。
- 「ケチる貴方」には、仕事上での男女の扱いの違いや、仕事先での嫌な態度など、仕事を思い出してしまいそうな場面もあります。
- 一方で、重たい出来事が次々に起こって読後まで引きずるタイプの作品ではありません。
- 2作品とも独特な視点で物語が進んでいくため、「次はどうなるんだろう」と先が気になり、私はどんどん読み進めました。
- 身体の悩みを扱った作品なので、安心して読める度合いとしては★3つにしました。
あらすじ
「ケチる貴方」
主人公は、ひどい低体温に悩んでいます。
寒い時期に外で仕事をすることになるかもしれないうえ、新人の教育係も任され、低体温だけではない悩みも抱えることになります。
そんなある夜、主人公の身体が熱くなり、汗をかき始めます。
ずっと欲しかった「体温」。
そして主人公は、あることをすると身体に熱が生まれることに気づきます。
その方法は、これまでケチっていたものを人に与えること。
主人公は熱を得るために、どんどん人に奉仕するようになっていきます。
果たして主人公は、体温を手に入れることができるのでしょうか。
「その周囲、五十八センチ」
もう一つの作品「その周囲、五十八センチ」も、身体の悩みを抱える主人公の話です。
子どもの頃から自分の脚の太さに悩んできた主人公。
大人になった主人公は、脂肪吸引をすることで、自分の身体に対する満足感を得るようになります。
ところが、一度得た満足感は、それだけでは終わりません。
身体を変えることによって得られる感覚を求め、主人公は再び脂肪吸引をするようになっていきます。
「自分の身体をなんとかしたい」という気持ちは、やがて主人公の生活の中で大きなものになっていきます。
読んで感じたこと
この2作品を読んで面白いと思ったのは、どちらも「自分の身体をなんとかしたい」というところから物語が始まること、です。
「ケチる貴方」の主人公は、とにかく体温が欲しい。
「その周囲、五十八センチ」の主人公は、自分の脚の太さをなんとかしたい。
どちらも、自分が納得できない身体を変えようとします。
でも、読み進めていくと、だんだんと身体の問題だけではなくなっていきます。
「ケチる貴方」では、仕事上で嫌なことがあったり、人間関係で思うところがあったりする中でも、主人公はとにかく「体温」のことを考えています。
そのため、読んでいるこちらまで、
「今日は体温が上がるのかな?」
「どうしたら熱が得られるんだろう?」
と、体温のことばかり気になってきます。
そして、体温を得るために主人公がどんどん奉仕するようになると、
「そこまでして大丈夫なの?」
と、今度は心配になってきます。
「その周囲、五十八センチ」も同じです。
脂肪吸引によって満足感を得ると、その感覚をもう一度求めたくなる。
身体を変えることで得られる満足感が、いつの間にか大きなものになっていきます。
2作品とも、主人公は自分の身体の悩みを徹底的に考えています。
でも私は、それによって身体以外のことを考えずに済んでいるのではないかと感じました。
生活の中で納得できないこと。
つらいこと。
人間関係のこと。
そういったものから目をそらすように、身体の悩みだけを一生懸命考える。
「身体をなんとかしたい」という気持ちは本物なのに、そこに夢中になることで、別の悩みを考えなくて済むようにも見えるのです。
だからこそ、読んでいて少し怖さもありました。
こんな人におすすめ
- 少し変わった小説を読んでみたい人
- 一風変わった視点の物語が好きな人
- 身体やコンプレックスをテーマにした作品に興味がある人
- 普通の「悩みを乗り越える物語」とは違う作品を読みたい人
- 短めの作品を読みたい人
- 読みながら「この主人公はどうなるんだろう」と考えさせられる作品が好きな人
身体のコンプレックスを扱っているので、明るく楽しいだけの作品ではありませんが、単純に「身体の悩みを克服する話」ではありません。
「なぜ、この主人公はそこまで身体のことにこだわるんだろう?」
「主人公はこの悩みにどう向き合っていくのだろう」
そんなことを考えながら読むと、より面白いと思います。
この作品で一番心に残ったこと
一番心に残ったのは、身体の悩みを追いかけていたはずなのに、最後には身体以外のものが見えてくるところです。
2人の主人公は、自分の身体について「こうだったらいいのに」と思っています。
そのために、一生懸命になっていく。
でも、その身体の悩みに向き合えば向き合うほど、私は「本当に欲しかったものは、身体を変えることだけだったのかな」と感じました。
はっきりと答えを示されるというより、読み終わったあとに「主人公が本当に欲しかったものって何だったんだろう」と考えたくなる。
そこが、この2作品の面白さだと思います。
読後の感想・まとめ
『ケチる貴方』に収録されている「ケチる貴方」と「その周囲、五十八センチ」。
どちらも、自分の身体に悩みを抱えた主人公が、その悩みをなんとかしようと奮闘する物語です。
「ケチる貴方」は低体温。
「その周囲、五十八センチ」は脚の太さ。
扱っている身体の悩みは違いますが、2作品を続けて読むと、共通するものが見えてきます。
それは、身体の悩みを考えることに夢中になることで、生活の中にある別のつらさや納得できないことから目をそらしているようにも見えること。
そして、その身体をなんとかしようとする行動が、途中から依存に近いものへとつながっていくところです。
だから私は、最初は「身体の悩みをどう解決するんだろう」と思いながら読んでいたのですが、最後には「この主人公が本当に欲しかったものは何だったんだろう」と考えていました。
そして、それぞれのラストには、身体だけを見つめていた主人公だからこそ気づけるものがあるように感じました。
身体の悩みを扱った作品なのに、読み終わったあとに残ったのは、身体そのもののことだけではありません。
自分が本当に欲しいものは何なのか。
そんなことを、少し考えさせられる作品でした。
視点がとても風変わりで、「こんなところから物語を描くんだ」と面白く感じました。
短い作品なので、独特な小説をサクッと読みたいときにもおすすめです。
ただ、身体のコンプレックスや脂肪吸引などが描かれるため、読むタイミングには少し注意が必要。
それでも、単純な「身体を変えれば悩みが解決する」という話ではありません。
身体をなんとかしようとした先に、主人公たちが何を見つけるのか。
そこを楽しみながら読んでみてほしい一冊です。



